谷川俊太郎「もし言葉が」

谷川俊太郎詩選集 1』(集英社文庫、2005年)pp. 106-107より。

 

 

もし言葉が

 

黙っていた方がいいのだ

もし言葉が

一つの小石の沈黙を

忘れている位なら

その沈黙の

友情と敵意とを

慣れた舌で

ごたまぜにする位なら

 

黙っていた方がいいのだ

一つの言葉の中に

戦いを見ぬ位なら

祭とそして

死を聞かぬ位なら

 

黙っていた方がいいのだ

もし言葉が

言葉を超えたものに

自らを捧げぬ位なら

常により深い静けさのために

歌おうとせぬ位なら