青葉市子「レースの向こう」

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青葉市子『檻髪』(2010)より。 

 

 

レースの向こう 

 

レースの向こうに 佇むあなたの声

いつしか緑のうえで 花咲かせるよ

紡いだ瞬きを 温めたら

リボンの靴鳴らして あなたを愛でに行くわ

 

時には霖も 虹をかけたがらず

毛布に包まる 孤独の 髪も絡まる

繋いだ指先を 震わせたら

レースの向こうには 野原に迎える人が

 

 

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彼女は1990年1月生まれなので、私と同学年。

調べたら、顔も好きだった。

 

今日は雨。思いのほか体力を奪われ、帰ってからしばらくぼうっとした。

最寄り駅から家に向かうときに、どこかの会社の内定生らしい集団とすれ違ったりした。内定生は内定生の顔つきと格好をしている。周囲の目からは私もそういう風に見えているだろう。

今日は早く寝よう。

谷川俊太郎「もし言葉が」

谷川俊太郎詩選集 1』(集英社文庫、2005年)pp. 106-107より。

 

 

もし言葉が

 

黙っていた方がいいのだ

もし言葉が

一つの小石の沈黙を

忘れている位なら

その沈黙の

友情と敵意とを

慣れた舌で

ごたまぜにする位なら

 

黙っていた方がいいのだ

一つの言葉の中に

戦いを見ぬ位なら

祭とそして

死を聞かぬ位なら

 

黙っていた方がいいのだ

もし言葉が

言葉を超えたものに

自らを捧げぬ位なら

常により深い静けさのために

歌おうとせぬ位なら

谷川俊太郎「無口」

谷川俊太郎『夜のミッキーマウス』(新潮文庫、2006年)pp. 56-58より。

 

 

無口

単純に暮らしている複雑なヒト

朝は七時に起きてピーナッツバタをぬったパンを食べ

平静な自分を皮肉な目で眺めて豚に餌をやり

足元のぬかるみを自分のからだのように慈しみ

机に向かって(鬱の友人に)投函しない手紙を書く

 

自己満足のかけらもなく自分を肯定して

意識下に埋葬されている母親のためにスミレを摘み

迷路はほぐしてしまえば一本道だから迷うのは愚かだと

明晰な古今東西の誌の織物を身にまとって

愛する者を憎みにのこのこ出かけて行く

 

話の種は尽きないけれど人前では無口

昼は多分そこらの街角でかけうどん一杯

どうしてどうしてと問いかける子どもは大の苦手

匂いと味とかすかな物音と手触りから成る世界に生きて

意味はどうすりゃいいんだいと困ったふり

 

欅が風に揺れていて雲がぽっかり浮かんでいて

なにかと言うと煙草を一服

もちろん何ひとつしないのが一番の贅沢だが

好きな枕を手に入れるためには働かなきゃなんない

鼻歌はいつもうろ覚えのオーバーザレインボウ

 

永遠も無限も人間の尺度にあらずと心得て

恋人の心理を小数点三桁まで憶測するのが喜び

夜はゴーヤで安い赤ワイン(デザートには多分バナナ)

風呂と布団にスキンシップの極意を極め

あとは日々の細部にビッグバンに連なるものを探すだけ